オイルの基礎知識・建設機械用の油脂
1 概要
今回はちょっと仕事上どうしても必要に駆られて書かざるを得なくなったためちょっとだけ専門的な事を書かせていただきます。建設重機を操作するオペレーターや、機械を修理する方々には常識的な事だと思いますが、これから重機作業に従事、あるいは建設業や機械に興味を持たれた方にはちょっとしたミニ知識になるかと思います。
世の中には様々な建設機械があり、それらに使われる油脂もまた、機械の特性、作業内容、環境条件等々によって多くの種類を持ちます。ここでは日本国内で一般的に使われている油脂を中心に説明していきます。
2 建設機械用燃料
建設機械は経済性、及び高出力の要求からディーゼルエンジンが多く用いられています。搭載するエンジンメーカーの推奨により,渡渉の誤差はありますが、ディーゼル燃料の凍結温度はJIS K2204に下記のように記載されており、作業を行う場所の気温などを考慮して適切な燃料を選択する必要があります。
ディーゼル経由 JIS K2204に準拠
JIS 特1号:凍結温度の目安 +5℃以下
JIS 1号:凍結温度の目安 -2.5℃以下
JIS 2号:凍結温度の目安 -7.5℃以下
JIS 3号:凍結温度の目安 -20℃以下
JIS 特3号:凍結温度の目安 -30℃以下
3 エンジンオイル
建設機械にはディーゼルエンジンが用いられており、エンジンオイルについても搭載エンジンメーカーの水晶に基づきますが、APIサービス分類のCH4〜CJ4、JASO規格の DH-2などに対応したエンジンオイルが使用されています。使い分けは外気温度範囲により以下の通りです。
SAE 40 :外気温度範囲 30℃以上
SAE 30 :外気温度範囲 -5℃〜40℃
SAE 10W−30:外気温度範囲 -30℃〜30℃
SAE 15W-40:外気温度範囲 -15℃〜40℃
4 ギヤオイル
建設機械での旋回や走行用の減速機ではギヤオイルが用いられており、耐久性及びコンパクトさの要求が進み、歯面強度に対する要求は厳しくなってきているため近年は極圧添加剤入りの高負荷用ギヤオイルが多用されるようになってきています。ギヤオイルについては自動車用ギヤオイルのAPIグレード GL-4級またはGL-5級が使用されています。
建設機械においてギヤオイルは、冷却、焼きつき防止など重要な性質を有しており、また足回りなどでは土砂・泥水・塵埃にさらされ使用条件が極めて厳しいため定期的な交換をしています。
5 グリース
⑴旋回輪用
上部旋回体を駆動する旋回輪は、負荷によるラジアル方向、またはアキシャル方向の変異が大きく、シールの緊迫力が常時変化することや、また雨水の侵入しやすい部位であることなどから耐漏洩性に優れたグリースが使用されます。機械の構造上、負荷が局部的に集中する場合が多いため、耐面圧性能の高い極圧添加剤入りの極圧グリースを用いる場合もあります。一般的にはこうおん、潤滑不良は発生しにくい環境ですが、定期的に交換しないと疲労損傷、摩擦等の原因となります。グリースの交換は軌道面に通じる給脂栓から行い、リリーフ栓またはシール面から滲み出させる構造が多く採用されています。
⑵アタッチメント用
アタッチメント用グリースとしては一般的に、耐熱性、耐水性、酸化安定性などに優れたリチウム石鹸系の極圧グリースが使用されています。特に極圧性、耐摩擦性が要求されるような部位には、二流化モリブデン等の極圧添加剤を加えた極圧グリースを使用する場合もあります。最近では、油圧ショベル用として、あらかじめ潤滑剤を封入したブッシュを採用するなどし、グリースの給脂間隔を延長する工夫もされています。
アタッチメント用グリースは、給脂しても雨に流されるなどして機外へ放出される場合が多く、環境汚染問題からバイオグリースの研究、開発も盛んに行われ、既に実用化されています。通常のグリースの場合、一般に基油として鉱油ガ使用されますが、生分解性が低いため一旦自然界に放出されるとなかなか分解されません。これに対し、バイオグリースは生分解性に優れた植物油や合成油を基油としており、自然界の微生物などによって容易に分解されるようになっています。極圧添加剤が配合されているものもあり、性能は上がっていますが、種類によっては耐熱性、耐水性が劣るものもあるため使用時には注意が必要です。
6 油圧作動油
油圧ポンプによって与えられた運動エネルギーを、コントロールバルブを介してかくアクチュエータに伝達するための媒体として、油圧作動油は建設機械にとって必要不可欠な存在です。油圧作動油として一般的に使用されるのは、好物湯系作動湯です。これは、天然の原油から分留・精製した基油に酸化防止剤、防腐剤、耐摩擦剤、粘度指数工場材、消泡剤などの添加剤を吹かして、作動湯に要求される特性を付加したものです。
湖沼の近くで稼働する機会には、万一の油洩れに備えて生分解性作動ゆを使用する場合があります。特にヨーロッパでの使用例が多くあり、オランダなどでは税制優遇措置を講じて使用を推奨している国もあります。生分解性作動ゆには色々種類がありますが、合成エステルを基油として蒸気添加剤を加えたものが主流となっています。
製鉄所内などの高温室内で稼働する工作機械には難燃性作動油を使用する場合があります。難燃性作動油にも様々な種類があり、水を多く含んでいて燃えにくい含水系と化学的に燃えにくい合成系に大別され、こちらも合成エステル系作動ゆが広く使用されています。しかし、シール材の変更、最高油温の制限などが必要になり、機械にそのまま使用するというわけにはいかないのが実情です。
7 ドレンサイクル
これら建設機械用油脂のうち、エンジンオイルは性能維持の為、定期的な交換を推奨しています。ディーゼル油は高温化仕様による劣化に加え、硫黄酸化物や、煤(すす)の混入により清浄性が低下していきます。また、オイル自体が徐々に燃焼消費されるため、定期的な補充も必要です。
排出ガス規制強化によ伴いエンジン使用条件が過酷になることから、海外ではピストン堆積物による放熱阻害・摩擦促進防止を目的とし洗浄分散性を向上させたグレート(C H-4)や更にクールドEGR対応グレード(CI-4)、2007年からのNOx、PM削減を目的としたグレード(CJ−4)がAPIで制定されるなどニーズに合わせた開発が進められています。
一方国内でも、独自のエンジン油規格(DH-1)及び低硫黄燃料の普及を視野に入れ、DPF装着・低硫黄燃料に対応したトラック・バス用(DH-2)、乗用車用(DL-1)ガイドラインがJASOにより制定・準備されています。アフターマーケットで様々なエンジンオイルが売られていますが、排出ガス規制適合性能の確保及びドレインサイクル延長のためには純正ないし各エンジン指定に適合したグレードのディーゼル油を使用する事が重要です。
同様に油圧作動油も高温・高圧で使用され油圧システム内を循環するので定期的な交換を推奨していますが、ドレンサイクルは機械の稼働条件や清浄度管理、作動油の種類により大きく異なります。やはり純正ないし各機械の指定に適合した作動油を使用する事が油圧機器の損傷を防止するためにも重要です。
鉱物油系の中でも、非Zn系添加剤を使用した作動油はロングライフ化が可能ですが、Zn系作動油との混用は本来の交換寿命が維持できなくなるので避けなければなりません。
生分解性作動油はその要求される性質上、安全性に限界があり過酷な使用条件においては鉱物油系よりも短いドレンサイクルを設定する場合があります。
補足
10W -30 と 10W40 の違い
⑴粘度指定 SAE規格の粘度指数
Wとつく場合は、低温時、外気温の粘度指数です。
0W → 外気温 ー30℃
5W → 外気温 ー25℃
10W → 外気温 ー20℃
15W → 外気温 ー15℃
20W → 外気温 ー10℃
エンジンが冷えてる時にオイルが硬くなってエンジンが始動できなくなるような極寒冷地では数値の低いものを入れます。
⑵10W40
下線部のようにー(マイナス)がついていない数字は高温粘度です。これは外気温とは関係なく、オイルそのものの温度が100℃の時の粘性度を表しています。数字が大きくなると、高温時でも粘性度を保ち続ける特性を持っています。そしてそれは通常使用時、エンジンに負荷をかけていない時は粘性が抵抗となり、エンジンパワーを消費します。粘度指数としてはエンジンに関しては30もあれば充分だと言えます。
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